34. 菖蒲文(しょうぶもん)
菖蒲は古くは「あやめ」と呼ばれ、菖蒲の字をあててから音が「尚武」に通じることから、特に武家では尊ばれました。
長寿のまじない、魔除けとしても用いられ、今も5月の節句にその習慣が残っています。菖蒲だけを単独で使えば初夏の趣きが強調されますが、御所解き文様のように、風景の中に流水と共に使う場合もあります。
35. 千鳥紋(ちどりもん)
川原や海辺に見られる千鳥は、古くから歌にも詠まれ、愛されてきました。
単純化された愛らしいものから、写実的に描かれたもの、
波と組み合わせて表現された「波に千鳥」など様々に意匠化されています。
この「波に千鳥」は涼感を誘うため夏の着物や浴衣などに多用されますが、
千鳥自体は通年使われる柄で、季語としては冬です。
36. 乱菊紋(らんぎくもん)
長い花弁が入り乱れて咲いている様を表現した、菊文様のうちの一つです。
菊は、中国では不老長寿の効があるとされ、 日本には奈良時代に渡来したと考えられています。
その高雅で気品のあるたたずまいから日本でも愛好された菊は、
文様化したものが数多くありますが、
乱菊文様は菊の花の華やかさをより一層目立たせるために、
大ぶりで伸びやかに表されることが多いようです。
37. 秋草紋(あきくさもん)
桔梗、萩、女郎花、撫子、薄、葛、藤袴の秋の七草や竜胆の他、
秋の野原に咲く花を文様化したものです。
これらのうち、数種類を用いても秋草文と呼びます。
決して華やかなものではありませんが、静かな趣きがあり、流水を描き加えたり、薄に露の玉を加えるなど、
自然を写し取った文様には日本ならではの情緒が感じられます。
また、季節をひと足早く感じさせてくれることから、 夏の着物や帯にも多用されます。
38. 牡丹紋(ぼたんもん)
奈良時代に中国から伝えられ、鎌倉時代には摂関家専用の文様として使われました。百花の王、瑞花として、また不老長寿の象徴として中国では特に好まれ
大牡丹、蝶牡丹など様々に文様化されたものは、現代でも着物や帯に多く見られます。
室町時代に渡来した名物裂の金襴や錦にも見られ、 牡丹唐草文は特に有名です。
39. 花車紋(はなぐるまもん)
花車文には、花で飾った御所車や、四季の草花を盛り込んだ籠を積んだ車など、様々な表現があります。さらに図案化が進むと、御所車の車輪だけに花をあしらったものもあります。
いずれも華麗で雅やかな古典柄として、振袖や留袖、袋帯などに使われます。
40. 蜻蛉紋(とんぼもん)
蜻蛉は古く「あきづ」と呼ばれ、古くから身近な昆虫でした。
武士の間では勝虫、勝軍虫とも言い、
縁起がよいので武具の文様として尊ばれました。
また能装束の中にも、優れた意匠のものが見られます。
多くはススキなどの他の草木と共に用いられ、季節の先取りとして夏の着物や帯に使われます。
また単独では絣柄としてもおなじみです。
41. 狩猟紋(しゅりょうもん)
獅子や鹿、羊、猪などを馬上の騎士が弓で射る場面を表した文様のこと。
西アジアを起源とする文様で、
特に王権を象徴する獅子狩文(ししかりもん)はアジア大陸の各地に見られ、
日本では奈良・法隆寺に残る錦が有名です。
本の古典文様の中では最古に位置付けられ、その格調の高さと高貴さから帯に織り出されることの多い文様です。
42. 貝合わせ紋(かいあわせもん)
別名、「蛤文(はまぐりもん)」ともいいます。
蛤は、対の貝しか合わないため、 平安時代から貝合わせの遊びに使われました。貝合わせに用いる、内側を美しく装飾した貝を合わせ貝、それを納める容器を貝桶といい、おめでたい文様として、単独で、または組み合わせて、振袖や留袖、訪問着や袋帯に多用されています。
43. 花喰鳥紋(はなくいとりもん)
花や松の小枝、あるいは「綬(じゅ)」という組紐の帯などをくわえた 鳥の文様のことです。
鳥は鶴や鳳凰、おしどりなどさまざまで、
天平時代に中国から伝わり、その優美な姿が衣服や工芸品に広く使われました。
正倉院裂にも多く見られ、今も吉祥文様の一つとして袋帯などに好まれます。
44. 薔薇文(ばらもん)
薔薇は、西洋では愛と美の象徴として、様々な装飾に用いられてきました。
日本では源氏物語にも「薔薇」の文字が見られ、 館の庭を彩る花の一つとして愛でられていた様子がわかります。
しかし、薔薇が注目を集めたのはやはり明治時代からで、
西洋の文明や嗜好が本格的に日本に流入してからです。
特に、大正モダニズムの流れを汲み、銘仙には優れた意匠の薔薇が多く見られました。 現代では、そのあでやかさとモダンさに人気があり、
様々に図案化された薔薇が染めの着物に多く見られます。
45. 花の丸紋(はなのまるもん)
草花を円形におさめた文様で、丸文の一種です。梅、椿、水仙、杜若、桔梗、菊などあらゆる花を文様化することができます。
古典的で優雅な雰囲気を持ち、能装束、小袖から現代の着物や帯の柄にまで、幅広く使われています。
刺繍で表現し洒落紋にしたものも、注目を浴びています。
46. 荒磯紋(あらいそもん)
<あらいそ>とも呼ばれます。
波間に踊る鯉を表現したものが代表的ですが、波の打ち寄せる荒磯に岩や千鳥をあしらった模様も、荒磯文の一種です。
そのルーツは中国から渡来した名物裂ですが、
岩に松を配した<荒磯松文>は日本的な雰囲気が感じられます。
水を連想させ涼感を演出できることから、
浴衣や夏の着物の意匠としても好まれます。
47. 花菱紋(はなひしもん)
弁の花を菱形に配置して描いた文様のことで、平安時代から、有職文様の一つとして一部の人たちだけが、使うことを許されてきました。
4個の花で一つの菱形を形成したもの、
また9個のブロックから成る花菱模様もあり、
幾何学文様ならではの様々なバリエーションがあります。
現代では上品な文様として、着物や帯に多用されます。
48. 貝紋(かいもん)
貝を図案化したもので単独で用いたり、
いろいろな種類の貝を散りばめて「貝尽くし」にしたり、
また海浜風景の一部として用いたりします。
貝としてはみる貝、ほら貝、帆立貝、蛤などが比較的よく用いられ、
蛤と蝶を取り合わせた<蛤蝶文>という文様もあります。
貝文は小紋や染め帯に見られ、洒落た雰囲気を醸し出します。
49. 鴛鴦紋(おしどりもん)
<えんおう文>ともいいます。
鴛鴦は姿と羽根が美しく、また雌雄が仲睦まじい習性から、二羽対で描かれることも多く、古くから絵画や詩歌の題材ともなりました。礼・盛装用の着物や帯に使われ、その華やかでおめでたい図柄は、花嫁のお色直し用衣装や留袖にも多用されます。
50. 椿紋(つばきもん)
椿は春の到来を告げる聖なる木として好まれ、文様化されてきました。
染織の世界のみならず、工芸品にも優れた意匠のものが数多く残されています。
現代でも着物や帯に広く好まれ、特に染め帯には取り上げられることも多く、
季節感を演出できます。
花を、軍配のように左右対称にデフォルメし単純化した椿は特に「遠州椿」と呼ばれ、
しゃれ帯や絣の文様によく見られます。